【開催報告】公開講座「高校生のための「未来構想デザイン」講座 続・講義編 @オンライン」(8/22)

2020.9.17

2020年8月22日(土)、公開講座「高校生のための「未来構想デザイン」講座 続・講義編 @オンライン」がZoomを利用して開催されました。九州地方のみならず全国、また海外(中華人民共和国)からの参加を含む40を超える数の参加者に受講していただきました。ここではその様子をレポートします。

 ■未来構想デザインコース概要 

はじめに、コース長の古賀徹先生(専門:哲学、倫理学、美学、デザイン原論)から、コースの紹介をしている動画の紹介をおこないました。未来構想デザインコースは、これからの新しい人間の生き方、社会のあり方を考え、そのためにどういうデザインをしたらいいかを考えるコースです。その上で、アート&デザイン、社会構想、生命・情報科学という3つの分野のどれかを選ぶというのではなく、それらが融合して新しいものをつくっていくことを目指しています。 

古賀先生からは次のようなコメントがありました。「皆さんの中には、こういう社会になったらいい、こういうふうに自分が生きていけたらいい、周りの人たちと一緒に過ごして生きたらいいという理想のようなものをお持ちだと思います。それが実現できるようなことを考えていくことを、コースの大きな柱にしています。建築、文房具、CGというような、ひとつの領域に特化するのではなく、皆さんの理想とするイメージに合わせて、どういうものを自分なら作ることができるか、どういう仕組みなら作っていくことができるか、どういう人間関係であれば作っていくことができるか、という考え方の特徴を持っています」 

■学校型選抜について 

学校推薦型選抜は、所属されている高校から推薦書をもらい受験していただく形式で、定員は5名です。近藤加代子先生(専門:環境政策、環境経済、社会思想史)から、ポリシーやスケジュールについて説明がありました。2次試験を面接と小論文試験による選考を予定していましたが、今年度はコロナ対応のため、オンラインによる面接と口頭試問に変える予定です。正式決定は9月末の募集要項の公開をお待ちください。 

近藤先生からは、「勉強だけではなく、創作活動や、地域活動、社会活動など、何か頑張ったことがある、自分で企画したことがある、というような人にはぜひ来てもらいたい」とコメントがありました。 

 
■総合型選抜について 

総合型選抜入試は、昨年度まで「AO入試」として実施されていたもので、定員は8名です。尾方義人先生(専門:インダストリアルデザイン、デザイン学)から、スケジュールなどの説明がありました。 

今年度の総合型選抜入試は1月23日(土)に実施されます。二次選抜は、「表現とプレゼンテーション」「対話」「レポート」の3段階で構成されています。尾方先生からは、「表現」、つまり「考えて伝える」ということ、「対話」、つまり「話し合ってより良くする」こと、「説明」、つまり論理的にこれまでのプロセスや経験を説明できることが大切だ、というお話がありました。新型コロナウイルス関連の対策で、現在(8月22日時点)で公開されている内容とは若干方法が変わる可能性がありますが、先に述べたような基本的な考え方は変わらないとのことです。9月下旬ごろに、総合型選抜の新たな対応が発表されます。 

尾方先生からは、「総合的なものの考え方、人と意見や考えを共有することが得意だったり、そういった方法に興味があったり、自信があるという人は、ぜひ受験していただければ」というコメントがありました。 

続いて3名の先生から、未来構想デザインコースの各分野の紹介と模擬授業が行われました。 

■各分野の概要と模擬授業①アート&デザイン 

道路, 写真, 座る, 男 が含まれている画像

自動的に生成された説明

片山雅史先生(専門は芸術)からまず「みなさん、アートといってまず何を想像しますか?」という投げかけがありました。小中高の美術の教科書に載ってるものや、美術館にある作品のようなものや、イラストや漫画も「アート」と呼んだり、映像や、AIによる作品など、さまざまなコンテンツもアートと呼ぶこともあります。さらに、近年は日本各地で芸術祭と呼ばれるものがたくさん行われ、地域の産業と結びついて、町おこし、ツーリズム、コミュニティの形成の一助となるもの、福祉や医療の現場で高齢者の認知症予防、生きがい創出など、社会の現場で今まさに直面している課題解決の一助になるものなど、ものだけではなく、創造のプロセスもアートと呼ぶようになりました、と片山先生。「私自身のこれまでの活動を通し、皆さんには創造することの喜びと、社会と関わることについて考え感じ取ってもらえたらと考えています」という導入から、ご自身の活動紹介がありました。 

幼い頃の、夕焼けに心が動かされたり、昆虫の成長や命のはかなさを感じたり、星が輝く夜空に神秘を感じたりする感動を、絵を描くことで伝えたかった、と片山先生。現代社会は、具体的な感動や経験がなくても短時間で簡単にたくさんの情報が手に入り、編集するだけで何でもできてしまうような時代。「自分自身がリアルに体験してみて感じて、考えて自分のフィルターを通してそれを組み立てるという原初的なプロセスは、アート作品だけではなく、プロジェクトを行うにしても研究にしても、人生そのもの、全てにおいて大切にしたい」と語りかけました。 

京都の芸術大学を出てから画家の活動で、世界各地、様々な場所で制作して発表していました、と片山先生。10年ほどして経済、消費活動に関わらざるを得ない専業画家の活動に疲弊し、気持ちをリフレッシュしようと先鋭的な芸術教育で話題のロンドン大学ゴールドスミス校に身を置きます。「芸術の現場よりも、次の時代の価値を次の時代を作る学生と一緒に作り上げていく」という意味で、教育の現場のほうがよりクリエイティブではないか、と感じた片山先生は、帰国後、九州芸術工科大学(現・九州大学大学院芸術工学研究院)に着任します。画家の活動も並行して行い、もともと理科少年だったこともあり、ひまわりの種の配列のらせん運動や、蜂の巣のハニカム構造を引用しながら絵を描くことに実験的に取り組んでこられました。 

ところで、ひまわりの作品をつくるにはひまわりをよく観察しなければなりません。しかし、当時福岡市内にはひまわり畑がなく、片山先生は「まちなかにひまわり畑をつくったらどんなに素敵だろう?」と妄想したといいます。しかし、公共空間を個人で使うことはできず、どこに相談しても相手にされなかったといいます。福岡市美術館から「大濠公園が花を植えたいといっている」と聞き、交渉の結果、1,500本のひまわりの畑をつくることになったそうです。片山先生は、この大濠公園のひまわり畑を、近隣住民の人といっしょにつくることで、コミュニティの場にしようと思ったそうです。 

「観光イベント的に、きれいなひまわり畑を作ることは簡単ですが、経済的利害関係を作らず、みんなで常に話し合いながら作ることにこだわりました」と片山先生。ひまわり畑を、関わる人と「共有する」畑にしようとしたのです。ひまわり畑ができると、いつのまにかみんなあいさつをしあう関係になり、プロジェクトに参加していた歌手の人がこの畑の前で歌いたいと言い出し、イベントをやったりもしたそうです。ひまわり畑は今や、大濠公園の夏の風物詩となりました。 

片山先生は、「このようなタイプのアートプロジェクト作品はまだなかったので、アートといっても理解されず、ボランティアとくくられることもあった」といいます。画家の活動と、大濠公園にひまわり畑を作る活動は、「自分にとってリアルであること、既存の価値に縛られないこと、つねに創造的であること」という観点からみるとまったく同じである、と述べました。 

「合理性や効率を求めて、すぐに役立つ結果を求めない。大人の社会のルールに縛られることなく、子供の頃の発見を大事に、既存の価値や常識に縛られることなく、1+1が2でなく3になるような妄想を含め、様々なことにチャレンジしていただきたい」と締め括りました。 

■各分野の概要と模擬授業②社会構想 

井上滋樹先生(専門:社会的課題のデザインによる解決)のお話は、大学時代のご経験からはじまりました。大学4年生のときに1年休学してアフリカに訪れ、半年間滞在した井上先生は、貧困や内乱などの現状を目の当たりにし、それが現在の活動の原点となっているといいます。「大学に入って、もちろん教室でも学んで欲しいですが、外の世界を見てほしい。コロナの状況で今は難しいが、あちこち冒険の旅に行くことをすすめたい」と、九州大学の海外連携のお話を交えた紹介がありました。 

井上先生はこれまで、障害者・高齢者や途上国の貧困層など、多様な生活者の課題をデザインにより解決することに取り組んできました。井上先生は、「大きな課題に対してみなさんは何ができるか?」と受講生に投げかけます。具体的には、国連が掲げるSDGs(Sustainable Development Goals)で示されている問題について、「信じられないしイメージもできないし、どうやって解決するかなんてもう全くわからない。ただし、これを続けていくと、2050年には地球が三つ必要になる」と警鐘を鳴らし、何かアクションに移さなきゃいけない、というのが井上先生の活動の原点にあるとのことでした。 

井上先生は芸術工学研究院の附属組織である「SDGsデザインユニット」でも活動をされており、その活動の紹介も交え、「授業とは別に、いろいろなプロジェクトがあるので、そういう中で自分自身を磨いてほしい」と呼びかけました。 

ではデザインに何ができるのか。井上先生は、RCAの大学生が携わったプロジェクトを例にあげました。そのプロジェクトでは、穴が空いている魚の網をつくりました。穴が開いてる魚の網は、魚が逃げてしまうので、普通は不良品です。ところが、魚の網に穴をあけることで、小さな魚だけ逃がし、生態系を保全するという目的でつくられたといいます。「例えば生態系保全をどうやって解決するかっていうと、海洋学者とか生物学者とかいろんな科学者とかいろんな技術が解決をするわけですが、デザインも、こうした課題を解決できるんです。こういう作品を一緒に作りませんか!」と投げかけました。 

インドでスラム街を歩いた学生たちが、衛生環境改善を啓発する絵本をつくるというプロジェクトでは、当初は学生たちは「妖精」を主人公にしたそうです。ところがインドの子どもたちに見せたところ、インドには「妖精」という概念がなかった。そしてインドでは牛が神様で、牛がプラスチックのゴミを食べて死んでしまったことがインドで大ニュースになり、多くの人が心を痛めてたということがわかったわけです。そこで絵本の主人公を牛にしたところ、大変反響が大きく、英語だけでなくヒンディー語、マラブ語などに翻訳し、1,000冊をインドの貧困地域の小学生に寄贈したといいます。「大学生の私にもできることがあるんだ」という言葉が印象的だったと井上先生はいいます。 

最後に井上先生は、「未来は、皆さんの手の中にあるんです。10年後こうなりたい。こういう社会になってほしい。ビジョンがあればですね、それに向かって今から走り出せば、若い皆さんは、それを実現する多くのチャンスを持っている。未来構想デザインコースは、そういった皆さんの未来をつくることを手伝うコースです」と投げかけました。 

井上先生が携わられたワークショップの映像もいくつか講義内で紹介がありましたので、ぜひこちらもご覧ください。 

九大 花王クリエィティブコラボ https://www.youtube.com/watch?v=vi7BNs3qjO8&t=15s 
プロフェッサービジット https://www.youtube.com/watch?v=ylBOIbLdDTk&t=4s 
SDGs DesignInternational Award https://www.sdgs.design.kyushu-u.ac.jp/awards/
 

■各分野の概要と模擬授業③生命・情報科学 

伊藤浩史先生(専門:生物のリズム現象)からは、生命・情報科学分野に所属する先生の研究や、ご自身の研究についての紹介がありました。 

生命・情報科学分野は学生に、情報科学や生物学の知識を生かして、科学的に物事を考えるスキルや、新たな表現やデザインを生み出すスキルを提供することを目指しているとのことでした。さらには、2019年に大橋キャンパスの中に完成した「バイオ・フードラボ」も紹介され、遺伝子組み替え実験をはじめとした先端的な実験から食べ物に関する実践的研究の場としまで広く活用できるとのことでした。 

続いて、伊藤先生から研究のご紹介がありました。伊藤先生は普段からサイエンスカフェの活動を行っておられ、「生物リズムの同期」をテーマとした実践的なレクチャーがありました。 

最初に、「カレーと肉じゃが、どっちが好きですか?」という、一見関係がなさそうな投げかけがありました(ちなみに伊藤先生はカレーが好きで毎日食べても苦にならないそうです)。続いて伊藤先生は、次々と映像を見せたり実験を目の前でやったりしながら、さまざまな現象を紹介してくれました。生物リズムの同期の紹介として、ホタルが同期して光って、光の波のような現象が起こっている映像を紹介してくれました。また、缶コーヒー2つに木の板を乗せて、その上に4つのメトロノームを乗せて動かすと、いつの間にか別々だったリズムが同期し始めます。またメトロノームを指でつついて同期を乱しても自然にもとに戻りました。「ぼくはここに生命の神秘を感じるんです」と笑う伊藤先生。 

なぜこういうことが起こるのか、と、次の実験を始めます。分厚い本と棒を使って坂道をつくり、どのような形状なものが転がりやすいかと問いかける伊藤先生。すると、形状によって安定するものとそうでないものがあることがわかります。この構造が電車の車輪に応用されている、と紹介します。 

伊藤先生は、「こうした現象を「安定性」と言い、安定性があるシステムは同じ数学的構造を持っている」と話し、「もしみなさんが数学をやっているようだったら「λiはヤコビ行列の固有値とすると、Re(λi)<0」と表せるのです」と語りかけました。これは高校生ではまだわからない概念で大学に入ってから授業で勉強することになる、と前置きしながら伊藤先生は、「数学を使うと、すべての構造が同じに見えてくるんです」と言います。ホタルも、メトロノームも、車輪も、数学を通じて考えてみると安定性という数学的構造は非常に似ているというのです。「数学のメガネで生物や社会のデザインを見てみましょう。もしも数学のメガネを持っていれば、同じように見えてくるんです」と断言する伊藤先生。 

最後に、最初に投げかけたカレーと肉じゃがの話に戻って伊藤先生は、次のようなお話をされました。「カレーと肉じゃがを作った経験のある方にとっては、カレーと肉じゃがは同じに見えますよね。というのも、これは結局、本質的に同じです。野菜や肉を煮込んで、その後カレールーを入れればカレーになるし、醤油とダシで味付けすれば肉じゃがになる。もし料理人の目を持っていたら、これは同じだねということになるわけです。それと全く同じ理屈で、もしもあなたが数学の知識を持っていたら同じに見えてくるものがある。そういうメガネは、例えば社会でどうやって意見の合意が形成されるのだろうかとか、なぜ社会の構造というのはこういうふうになっているのだろうか、みたいなことを考えたときに、役に立つはずです」。 

伊藤先生は、「数学は一体何の役に立つんだろうか?」と考えて受験勉強している学生に向けてエールを送りました。「具体的に自然の中にあるものを理解するため、勉強しているんだよ、ということを意識されると、少し受験勉強のモチベーションが上がるのではないかなと思います。この未来構想デザインコースでの挑戦を、私たち一同お待ちしております!」 

■まとめと感想

休憩後は、小グループにわかれ、教員や、未来構想デザインコース1期生の学生たちにも加わってもらい、参加者からの質問や感想に応えました。 

最後にコース長の古賀先生から、「未来構想は、こういうものだ!と確立されているわけではない。一人一人の頭の中に未来のデザインをつくっていただき、このコースをぜひ受験してください」というまとめの挨拶がありました。 

受講生からは、「デザインすることが社会貢献につながることがわかり、「デザイン」のイメージが変わりました。デザインというと物体をデザインすると考えていましたが、それ以外にもあるということがわかりました」「芸術工学部のイメージはモノのデザインがメインだとおもっていましたが、社会をデザインする魅力的な学部だと感じました」「まだ受ける学科やコースは決まっておらず軽い気持ちで受講したのですが、とても分かりやすく様々な分野の講義が知れて良かったです」といった感想が寄せられました。受講いただいたみなさま、ありがとうございました。