【開催報告】公開講座「未来構想デザインコースの紹介」(2021/6/19)

2021.7.3

2021年6月19日(土)、第9回九州大学芸術工学部オンライン施設公開「デザインの未来へようこそ」の一企画として公開講座「未来構想デザインコースの紹介」がZoomを利用して開催されました。全国から60名以上の参加者に受講していただきました。ここではその様子をレポートします。

■未来構想デザインコースの概要

まずコース長の古賀徹先生(専門:哲学、倫理学、美学、デザイン原論)から、未来構想デザインコースの概要について紹介がありました。未来構想デザインコースは「未来社会のビジョンを構想して、デザインの未来をデザインする」ことを目指し、今までの想定を超える未来の社会や生活のあり方がデザインの対象である、と古賀先生は話します。

例えば新型コロナウィルス感染症問題を考えると、これまでの「感染症対策」としての思考を超えて、コロナ以後の社会のデザインを考えることが求められています。死亡率・回復率と相関のある社会要因の予測、人が移動しない国際交流の促進、感染者や家族を孤立させない生活などの領域を新しく開拓し、従来の感染症対策と融合し「新しい生活の価値、次の幸福を考えるデザイン」を目指していくのが、未来構想デザインコースのあり方である、というお話がありました。

続けて「ありえない」を構想し、かたちにする身体知を学ぶ「アート・デザイン」、「もの・動植物・人」にかかわる新しいコミュニケーションと仕組みをつくる「社会構想」、「生きる」とはなにかを捉える数理的・科学的能力を育成する「生命・情報科学」の3つの領域が紹介されました。

最後に、未来構想デザインコースから生まれるのは「社会のなかで、組織のなかで、働く場所を自分でつくる、新しい時代のデザイン・アクティヴィスト」である、と古賀先生は紹介しました。アクションを最初に定期して周囲をその気にさせ、新しいプロジェクトとグループを自分で組織し、状況を的確に把握して柔軟に対処し、新しい事業を社会や企業の中で認めさせる。その結果、収益や成果を上げてプロジェクトを持続可能なものにするような、新しいデザイナーが求められている、と紹介されました。

■未来構想デザインコースの研究講義紹介

○アート・デザイン分野

アート・デザイン分野からは、稲村徳州先生(専門:デザインエンジニアリング)が分野の紹介をしました。「豊かな感性と発想で、未来のビジョンを描き、それを実現する地域や技術を学ぶのがアート・デザインですが、それは具体的にはどういう話なのか?」という投げかけから、稲村先生が関わられている複数の事例が紹介されました。

例えば「未来の河川をつくる」ことをテーマにしたプロジェクトでは、水辺をわくわくするものに変えよう、というプロジェクト自体が「グッドデザイン賞」を取っているそうです。

授業では、大橋キャンパス近くの川の真ん中に立って、これからの河川のあり方を身体的に考えるという授業も行なっているという紹介がありました。

また、いくつかの動画を通じて、未来のビジョンをデザインする具体的な事例を深掘りしたご紹介がありました。

【講義の中で紹介された動画】

最後に、アート・デザインの分野を専門にした卒業後の進路の可能性についてお話がありました。

稲村先生からは、世界的に見ると近年デザインの会社が別の分野の企業に買収される事例が多いことの紹介がありました。インターネット関係の企業だけでなく、経営コンサルティング、銀行などに大きなデザイン会社が吸収されている傾向があるとのことです。このことから、アート・デザインの能力は、仕事の機会も増えていて、社会から求められているという側面が産業界からも顕著であるということです。日本も、経済産業省で高度デザイン人材をどう育てるかということを課題とし、アート・デザインの持つ力に期待されているという側面があるとのことです。

稲村先生からはこのことも踏まえ、「アート・デザインの分野で一緒に未来をつくりたい」というまとめがありました。

○社会構想分野

Loh Wei Leong先生(専門:デザイン教育)からは「デザイン教育によるイノベータの育成について」をテーマとした講義がありました(学生による通訳を交え、講義は英語で行われました)。

デザイン教育というと、デザインの専門教育をイメージする人が多いかもしれませんが、デザイン教育は一般教養としても提供することができる、といいます。必ずしも職業的で専門的なデザインを学ぶというわけではなく、小・中・高で行うことができるものです。海外ではデザイン教育は「デザインと技術」「技術」という科目で提供されています。日本の場合は技術的な側面が重視されていますが、昨今の文部科学省の方針に基づいて、日本の「技術」にもデザイン活動が導入されていくことが考えられるとのことです。

Leon先生は、「デザイン教育では、現実世界を解決するツールとして、問題解決能力、創造性、クリティカル・シンキング、技術のリテラシー、社会的感情学習などのスキルを学ぶ」と語りました。加えて「イノベーター」についても問題提起がありました。今までにないもの、問題解決するアイディアをたくさんもっているだけでなく、それを客観的、美的、倫理的に考えるためのクリティカル・シンキングが求められるとのことです。

最後に、具体的なデザイン教育の事例について、服、食、建築、家具などさまざまな分野についての紹介がありました。シンガポールの中学4年生(日本だと高校1年生)とのプロジェクトでは、火鍋を食べるときに多く使用する必要がある「おたま」を減らすためにはどうしたらいいか、衛生上の理由からテーブルの表面に触れないためにはどうしたらいいか、というテーマでアイディアを考えたプロセスが紹介されました。異なる料理器具との比較を通じて、たくさんのアイディアを学生が主体的に考えて、プロトタイプを設計したそうです。厚手の紙での試作から始めて、具体的な素材を用いて試行が続いたそうです。このようにデザインのプロセスには、問題定義をし、できるだけ多くのアイディアを考え、その中から可能性のあるアイディアをいくつか発展、評価させ、実際に試作品をつくるという段階が含まれているとのことでした。

○生命・情報科学分野

丸山修先生(専門:Computational biology (計算生物学)、バイオインフォマティクス)からは「コンピュータはなぜ我々の言語を(ある程度)理解しているように見えるのか?」というテーマで講義がありました。

言語は「形式言語」と「自然言語」に分類できます。「形式言語」とは文法が形式的に定まっているもので、典型的例としてプログラミング言語、PDFやJPEGなどのファイル・フォーマット、そして計算モデルのオートマトンなどです。一方、「自然言語」は日本語や英語など私たちが用いる言語体系です。現在使用してる言語は生きた言語とも言えます。なぜならば、単語は毎年増加しているし単語の使い方が変わったりするからです。

最近コンピュータが自然言語をある程度理解しているように思える事例が多くあります。例えば、機械翻訳、自動要約、自動応答、image captioning(画像にキャプションをつける技術)やチャットボットです。その背景には、再帰型ニューラルネットワーク(Recurrent neural network, RNN)をベースにしたSeq2seqという計算モデルの存在があります。Seq2seqのencoderモデルは、例えば”Did you get it?”という入力文字列に対して、その文字列の抽象表現である隠れベクトルhを生成します。そしてSeq2seqのdecoderモデルはhを初期状態として受け取り、妥当な返答”Now it makes sense.”などを出力します。さらにencoderモデルを画像認識する畳み込みネットワーク(Convolutional neural network, CNN)に変えれば先ほど触れたimage captioningのモデルとなります。さらに、このようなSeq2seqモデルを連続的に使用すると結果的に質疑応答やチャットボットとのやり取りとなるというお話がありました。

では、このようなモデルが単語をどのように扱っているかという話がありました。結論からいうと、各単語に対して100次元などの実数ベクトルを割り当てる「分散表現」を用いるということでした。ただし、「単語uと単語vの意味が近い」ときにはまたその時に限り「uのベクトルとvのベクトルは近い」という性質を満たすように割り当てるそうです。そして、これらのベクトルの和や差を取るとそのような演算に対応する概念が得られているという興味深いお話でした。つまり、ベクトル空間中でのベクトル間の位置関係が重要であり、いわゆる「相対主義」を地で行くような例とのことでした。また、この割り当ての決定にもニューラルネットワークを用いるそうです。また、単語だけでなくパラグラフや記事全体に対してベクトルを割り当てる手法も紹介されてました。結果的に、私たちが使用する自然言語の近似システムがコンピュータ上に再現されているということでした。そして最後に、単語やパラグラフなどの分散表現が近似的に使えるので、これを私たちの気持ちを相対的に表現できるのではないかという話で終わられました。

○未来構想デザインコース所属学生の声

次に、未来構想デザインコース1期生からの体験談が紹介されました。内容は後日、別コーナーにて紹介予定です。ご期待ください。

最後に、入試情報や、質疑応答が活発に行われました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。